診療コラム

詳細)義歯のメカニズム

義歯のメカニズムの詳細

義歯のメカニズム

歯を無くす理由は、いろいろあるのですが、まったく悲しいことです。
歯は外傷や先天的な理由で無くなってしまう事もありますが、ほとんどの場合は虫歯や歯周炎によって無くしてしまいます。
歯はいきなり忽然と消えてしまうものではありません。

まだ部分的に歯が残っている方はなぜ歯がなくなってしまったかを歯科医と一緒に良く考えて見ましょう。
それが残った歯を、より長く残すために一番大切で有効なことです。

歯が無くなると、それを支えていた骨も一部なくなります。
ですから、入れ歯を作る時、単に無くした歯の部分だけを補っても口腔内は満たされません。
補うべき理想の容量は歯と共に消失した組織との総量です。
そして、その形は元あった無くす前の形態です。
そうして、はじめて頬や舌唇といった口腔を構成している他の組織の中に無理なく満たされることなります。
大き過ぎても、小さすぎても、位置がずれていてもいけません。

そもそも入れ歯は単に歯の無くなった顎のドテに乗っかっているだけの物です。
それがちゃんとご飯を食べる時に役に立つんです。
ちょっと信じられませんね。

凄く良く咬めるよ!! という長年使い込んだ入れ歯であっても、口を開けてもらって、指で横からちょっと押すだけで簡単にはずせるんです。
でもご飯は食べられる。

この秘密は、先に述べた口腔を構成する他の組織、舌や頬、唇のホールド(抱きかかえ力)によるところが大きい。

咀嚼をするときに少し気をつけて観察してみると、頬や舌、それに唇に力が入っているのがお分かりになると思います。
この力が相殺しあって顎のドテの上の義歯に作用されれば、入れ歯はずれることなく顎と協調して働き、咀嚼を行うことが出来ます。
その関係が成立していれば、咀嚼以外の時も全く無理な力は発生せず、きわめて楽ちんなお口の状態になります。

そして実際の義歯にかかる力学で最大のものが咬み合わせの力となります。
咬む力を適切に利用しない手はありません。

下顎というのは、あらゆる方向に移動します。
この時、上下の入れ歯が、いつも多くの接触点を持ち、常に顎のドテに押し付けていられれば顎と義歯は協調して一体化してくれます。
そのために働いてくれるのが歯の咬む面にある凸凹です。
顎がずれた時に凸凹の斜面を使って接触が維持されるわけです。(これをフルバランスと言います)

すべての接触を維持しながら咬み込む顎の動きに関しては、昔から歯科の世界では研究されています。
それはもともと総入れ歯作成の必要に迫られた形で進んで来ました。

簡便にバランスを得るための人工の歯の開発も多くなされてきました。
中には真っ平らな歯や、金属で出来た十字ドライバーの先のようなもの、歯の凸凹の傾斜を変えてみる、幅を狭くする、などいろいろ試行錯誤が繰り返されてきました。

しかし、接触のバランスだけでなく、歯の咀嚼するという、最も重要な機能、そして患者さんの舌触りや感触(当たり前ですね、歯のあるころの記憶は頬や舌にはありますから)などから、結局は天然の歯の持つ形態を超えるものは見つかっていません。
今後もいろいろ工夫はされるでしょうが、理論上新たな発見は難しいでしょう。

すべての接触を維持しながら咬み込む

なんといっても今の人間の歯や顎は、生物進化(生物では36億年、哺乳類で6000万年、人類だけでも700万年)の歴史によって、まさに地球の実験室で、それこそ試行錯誤で作り出されたのですから、そこに潜む意味はそうそう解明されつくし凌駕していけるものではないのでしょう。
やはり、何事につけ自然、天然には勝てないということです。

人間の頭蓋骨の宗族発生

解明して、得られる知識はそのホンのわずかな一部。
一部の知識の中で、理想の歯を新作しても十分ではないでしょう。
しかも、そしてその知識を集積してきた年数はわずか150年です。

我々歯科医は、大学でこの歯の形を身につけるために歯の彫刻の訓練をします。
学生の中からは「まったく非科学的な実習だ」「意味が無い」との言葉を良く聞きます。(わたしも多少思ったことがありますが)しかし、もうお分かりのようにこの言葉はまったく科学や自然のことを理解してない発言なのです。傲慢とさえ言えます。

現代人には、自然を征圧した、あるいは出来るのではないかという誤解と、先人たちが自然の中から抽出したわずかな知識をありがたがるという悪しき傾向があります。

研究や分析はもちろん大切です。人間が自然を効率よく生き抜くために発明してきた武器ですから。
しかしすべてに勝てるわけではありません。


歴史の勉強とは、世の中とはこうゆうものだ、人間とはこうゆうことをするものだ、昔はこれが常識だった、、
と言うように、ものの本質を知るための大変重要な学問なのですが、医学の中には、地球史や生物進化史という教育時間がありません。
大学のカリキュラムに是非入れることを望みます。卒後研修を半分にしてでも、裂く価値のある時間だと思うのですが・・・。

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