診療コラム

咬み合わせの成り立ち

咬み合わせの成り立ち

咬み合わせの成り立ち

歯は消化器官の中のパーツの一つです

消化管はもともと入り口と出口を持つ細長い管を栄養吸収の場として体の中に作り上げたものです。
そしてその腸管は消化機能向上のためその一部を太くし、食物をトラップして酢ずけ状態になるよう胃を作りました。
さらに効率を上げるため、食物の加工場として、その入り口に歯、歯列を作ったわけです。
言うまでもなく、歯は食物を粉々にするための道具なのです。

地球上でもっとも適応性の高い生き物であるヒトは、あらゆる環境変化に対応すべく雑食性で臼磨を行うように進化して来ました。
確かに諸般の事情によりアゴは華奢になって来ていますが、根本的に臼磨という運動傾向は引き継がれています。
このことは人においては、多様な歯の接触が必要であるということです。

現代の食生活変化に関して

しかし、ここ100年程度の日本における生活環境や食生活の変化は著しいものがあります。
日本人の顔は過去100年で30%、これからの100年でさらに20%の縮小が起こるといわれています。

これはある意味進化と捉えることもできますが、問題はその時間的な速さであると思われます。
緩やかな変化が全身との協調を伴って起こる場合には問題は少ないのですが、昨今のあまりにも急激な食生活や生活様式の変化は極端な咀嚼器短縮の先行を呼び、協調を欠き、疾患のような形で表れています。

歯を健康にするために

ヒトは今や口腔の手前で、もう一つの加工場を作ってきたわけですが、過剰な加工を追い続けることで自己家畜化してしまうのを回避する知恵が必要です。

よく、健康を維持するための三条件として「歩行」「手作業」「読書」があげられますが、ここに「奥歯でよく咬む」という項目を加えてください。
生活を原始に戻すというわけではないですが、少なくとも緩やかな変化のために発育期もそれ以降も、よく歩き、咀嚼回数を減らさないような食品の摂取や、躾を十分に行うよう指導することで様々な歪は少なくできると思います。

そしてこのことは歯だけでなく全身においても充分好ましいことです。

それぞれの患者さんの咬み合わせ

しかしヒトは他の動物に比べ極めて多様性に富んでいます。
ヒトほど顔の形がそれぞれ異なっている動物はいません。
そしてそれは、構造的にお口の形の違いに由来しています。
その大きな要因としてそれぞれのヒトの発育環境や食生活の差が挙げられるのですが、少し個人での咬み合わせの作られていく様をお話してみましょう。

歯列(歯並び、咬み合わせ)は成長発育のなかで筋力や重力等の力学的な影響を受けて仕上がってくるのですが、子供の頃の歯の生え代わりの時に最も大きく影響します。
食事において、どれだけ良く咬んで生えつつある歯に機能の力を与えられるかが、機能的な咬み合わせを育成するカギになります。

この歯列に与える力は顎骨(歯列弓)や関節の形、大きさの成長に対しても影響を与えるという重要な意味も持っています。
ですから子供達の発育期の環境や食事内容、躾は想像以上に重要なことなのです。
歯列矯正治療も体の変化の大きなこの時期(男性18歳、女性15歳程度迄)に紛れ込ませるのが望ましいといわれる理由はここにあります。

年齢とともに咬み合わせは変化する

しかし成長発育が終了してしまっても、そこからの歯の使用状況によっても咬み合わせは変化していきます。その証として咬耗という歯のすり減り現象があります。
咬耗の進行原因のひとつに加齢が挙げられますが、加齢によりアゴ周辺の組織も変化をしていきます。

顔面や頸の皮膚はもちろんのこと筋肉なども弾力的で張りのある状態から、強靱ではあるが弾力性の乏しい復元力の弱いものに徐々に変っていくのです。

ここには接触点、面積が少ない若年者の歯列の期間は、弾性の富んだ組織達がアゴの位置の復元を助け、復元力の乏しくなる壮年期以降は磨耗が進んで接触面積が多くなって安定した咬み合わせが補っていくという構図があります。

1日の生活の中だけでも、少なくとも2300回の咬み合わせによる接触があり、うち1800回が食事時に残り500回が食事以外の時に行われています。
これを10年、20年、あるいは40年と続けていかなければなりません。
体も顎も歯も折り合いをつけながら少しずつ少しずつ変わっていくのです。

ですから、咬み合わせというものは、その人ごとの成長完了の前後にかかわらず、それまでに行ってきた食生活の反映であり、相応に体、生活に適合してしまっているといえます。

人生とともに、自ら作り上げてきた咬み合わせ、あるいは歯の形態や接触はかけがえの無いものとしてあるのです。

目指すべきものは

本来持っていた、そして今の年齢ならばこうだと思われる形態を復元することで回復できる機能や審美は確かなものです。

お口の中の歯や咬み合わせは、機能と直結している形態としていかに歯列に紛れ込んでいけるかが重要なことであり、天然歯と見紛うような状態にすることこそ私たち補綴専門医の咬み合せ治療の目的地なのです。

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